2023.02.06
漢方医学からみる冬の健康
冬になると体にはどのような変化が起こり、健康面にどう影響するのでしょう。今回はこれらについて漢方医学(中医学)の視点から解説していきます。
まず、冬は寒いですね。寒くなると血管が収縮し、筋肉も縮んで凝りやすくなります。これを中医学では「寒は収引を引き起こす」という言葉で表現します。血管が収縮すると、血圧が高くなります。結果的には血液の循環が悪くなり、つまり「瘀血(おけつ)」という状態となります。循環が悪くなると、血液の分布が不均等になり、不足部分特に下半身・足元などが特に冷えます。これを「冷え症」といいます。また、一部に熱がこもったり充血したりすることもあり、その部分が特に肩や頭の場合は重く凝り、場合によっては「ほてり・熱感」がすることもあります。つまり、気血の循環が悪くなると、正反対に「冷え」や「内熱」が出ることがあります。
これが冬になると、血圧が高くなりやすく、脳梗塞や脳溢血になりやすい原因です。この観点から、適度な運動が血液循環の改善に非常に役に立つことがわかります。中国戦国時代《吕氏春秋•尽数》にある「流水不腐,戸枢不蠹(流水は腐らず,戸の軸は虫に食われない)」とはまさにこのことです。漢方では、気血のめぐりを促進するために当帰・川芎・地黄・芍薬・桃仁・紅花・田七人参、桂皮・柴胡・蘇葉・生姜などをよく用います。また内熱を冷ますもの、たとえば黄連・黄芩・菊花などもおすすめです。
富士堂では体を内側から温めて冬の不調を解消するオリジナル漢方茶「ポカポカ茶」を取り扱っております。
寒くなると、空気も乾燥してきます。
そのため、冬は寒いだけでなく、乾燥が加わり気道に大きな影響を与えます。
漢方医学的な言い方をすると、寒邪と燥邪になります。
夏の快適室内湿度は55-65%、冬は45-60%とされています。夏なら65%以上、特に70%を超えると皮膚の汗が蒸発しにくくなり、べたべたして不快さを感じます。
逆に冬は湿度が40%より低いと、口腔粘膜が乾燥し、インフルエンザウィルスの生存率が高くなります。また呼吸により乾燥した空気が気道に出入りすると、口腔や気道の水分も失われます。喉が乾くと、口腔内でウイルスや菌が繁殖しやすくなり、咽頭部の発赤、きりきりとした痛み、乾いた咳を引き起こします。ひどい時には風邪、咽頭炎、扁桃腺炎、鼻炎、気管支炎・喘息、インフルエンザなどにかかってしまいます。
下は1961年にG.J.Harperらが研究したインフルエンザの生存率を示すグラフです。
[caption id="attachment_1070" align="alignleft" width="450"] インフルエンザウィルスの生存率1[/caption]
つまり、温度・湿度が上がるほど、インフルエンザウイルスの生存率は低下し、湿度が50%を超えると急激に低下するとされています。
深秋から冬に旬をむかえる梨・大根・りんごなどは水分がよく含み、去痰や潤い作用を持ちます。
また、咽頭乾燥、咳、咽頭痛、喘息、肺炎などに対しては、漢方医学では昔から豊富な治療経験があり、麦門冬・半夏・人参・桔梗・甘草・陳皮・竹茹・地黄・当帰などの生薬が多く用いられます。
空気の乾燥から、皮膚のかさつきや乾きに悩む方は多くいらっしゃいますが、皮膚の乾燥に気づかない方も実はいます。皮膚の一番外側の表面には皮脂膜があり、その下に角質層があります。角質層には皮脂、天然保湿因子、角質細胞間脂質があり、皮膚を乾燥から守るために重要な働きをしています。
皮膚の表面が乾燥してくると皮脂膜を保てなくなり皮膚の水分が蒸発しやすくなります。また、角質層の保湿因子が減少し皮膚が水分を保持できなり乾燥肌を引き起こします。乾燥した皮膚では角質層の真下にかゆみを伝達するC線維という知覚神経がのびてきているため、外部からの軽微な刺激にも敏感に反応してかゆみを誘発します。保湿することは皮膚を乾燥から守ると同時にかゆみを予防するためにもとても大切です。
漢方医学からみれば、寒い冬には陽気が収斂し、皮膚に気血の循環が乏しくなりやすく、皮膚のうるおいが足りなくなります。「外部の燥邪(乾いた空気)」と「内部の燥邪(循環不足による保湿因子の減少)」が「敏感肌・痒み」をつくるのです。 また、代謝力の乏しい老人や婦人は、もともとの腎気が弱いため、皮膚の再生力が弱く、よりうるおい不足に陥りがちで乾燥肌や敏感肌、皮膚炎になりやすいという結果に。
中医学には「燥生風」という言葉あります。冬には外気が寒く、空気が乾燥しており、乾燥肌の上にさらに暖房やお風呂で温めることにより、温暖・乾燥・静電気などの刺激が加わり、よりかゆみが出やすいのです。また、掻くことで皮膚の表層が搔き壊され、より敏感に、よりかゆくなります。その結果、皮膚炎が生じることになります。漢方医学では、皮膚炎の段階になれば「燥火が生じている」と称します。乾燥肌が要因となり、アトピー性皮膚炎が冬に悪くなるケースも少なくありません。
「気・血・水」、また「燥・風・火」から、皮膚乾燥・乾燥肌・皮膚炎の漢方治療を見ると非常にわかりやすくなります。
気:腎気不足、代謝低下には補腎薬の漢方薬地黄・山薬・山茱萸・沢瀉などが有効
血:補血剤の漢方薬である当帰・地黄・芍薬・川芎(=四物湯)をベースに治療するとよい
水:水分代謝力を高める黄耆・茯苓・沢瀉などがよく用いられる
燥:多くは血を補って、血燥を治療する。やはり、当帰・地黄・芍薬・何首烏・甘草などの漢方薬がよい
風:防風、荊芥、蒺藜子などで風を去り、かゆみを止める
火:皮膚の発赤・湿疹(皮膚炎)、強い掻痒には、黄連・黄芩・山梔子・黄柏・苦参・石膏などの清熱解毒の漢方薬を用いる
乾燥肌やそれに起因する諸症状の治療や予防には保湿が大切です。
保湿剤として一般的にはワセリン、尿素入り外用剤、ヘパリン類似物質含有外用剤があり、剤形には軟膏、クリーム、乳液、ローションがあります。保湿剤は強くすり込んだり押し付けたりせず、やさしく撫でるように塗ると刺激を避けられます。
また、日常的に皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぐ工夫が必要です。お風呂のお湯の温度は高すぎないようにし、長湯を避けましょう。その他にも適当に水分を摂ったり、適正量の脂肪やコラーゲンを含む食品を摂ることも、乾燥肌対策の役に立ちます。
このように、冬の寒さや乾燥は人体に様々な影響をもたらしますが、正しく自分の生活環境を整備することにより不調を回避することができます。もちろん、少しでも体調の変化を感じたら悪化する前に早めの治療を。当店では日常的に予防も兼ねて漢方薬を取り入れているお客様が多くいらっしゃいます。薬だけでなく薬膳や漢方茶から始めてみるのもおすすめです。
【関連記事】
>>記事「アトピー性皮膚炎の原因と漢方薬」
>>記事「入浴で疲れを癒やしてリラックス|漢方薬局の入浴パック」
■オンライン相談について>>「オンライン漢方相談|来店なしでお薬お届け」
■漢方相談予約・お問合せ>>「お問い合わせ(LINE,WeChat,Skype,メールフォーム」
1.寒—血管収縮—瘀血—冷え・内熱
まず、冬は寒いですね。寒くなると血管が収縮し、筋肉も縮んで凝りやすくなります。これを中医学では「寒は収引を引き起こす」という言葉で表現します。血管が収縮すると、血圧が高くなります。結果的には血液の循環が悪くなり、つまり「瘀血(おけつ)」という状態となります。循環が悪くなると、血液の分布が不均等になり、不足部分特に下半身・足元などが特に冷えます。これを「冷え症」といいます。また、一部に熱がこもったり充血したりすることもあり、その部分が特に肩や頭の場合は重く凝り、場合によっては「ほてり・熱感」がすることもあります。つまり、気血の循環が悪くなると、正反対に「冷え」や「内熱」が出ることがあります。
これが冬になると、血圧が高くなりやすく、脳梗塞や脳溢血になりやすい原因です。この観点から、適度な運動が血液循環の改善に非常に役に立つことがわかります。中国戦国時代《吕氏春秋•尽数》にある「流水不腐,戸枢不蠹(流水は腐らず,戸の軸は虫に食われない)」とはまさにこのことです。漢方では、気血のめぐりを促進するために当帰・川芎・地黄・芍薬・桃仁・紅花・田七人参、桂皮・柴胡・蘇葉・生姜などをよく用います。また内熱を冷ますもの、たとえば黄連・黄芩・菊花などもおすすめです。
富士堂では体を内側から温めて冬の不調を解消するオリジナル漢方茶「ポカポカ茶」を取り扱っております。
2.寒+乾燥―咽頭部乾燥―咽頭・気管・肺
寒くなると、空気も乾燥してきます。
そのため、冬は寒いだけでなく、乾燥が加わり気道に大きな影響を与えます。
漢方医学的な言い方をすると、寒邪と燥邪になります。
夏の快適室内湿度は55-65%、冬は45-60%とされています。夏なら65%以上、特に70%を超えると皮膚の汗が蒸発しにくくなり、べたべたして不快さを感じます。
逆に冬は湿度が40%より低いと、口腔粘膜が乾燥し、インフルエンザウィルスの生存率が高くなります。また呼吸により乾燥した空気が気道に出入りすると、口腔や気道の水分も失われます。喉が乾くと、口腔内でウイルスや菌が繁殖しやすくなり、咽頭部の発赤、きりきりとした痛み、乾いた咳を引き起こします。ひどい時には風邪、咽頭炎、扁桃腺炎、鼻炎、気管支炎・喘息、インフルエンザなどにかかってしまいます。
下は1961年にG.J.Harperらが研究したインフルエンザの生存率を示すグラフです。
[caption id="attachment_1070" align="alignleft" width="450"] インフルエンザウィルスの生存率1[/caption]
つまり、温度・湿度が上がるほど、インフルエンザウイルスの生存率は低下し、湿度が50%を超えると急激に低下するとされています。
深秋から冬に旬をむかえる梨・大根・りんごなどは水分がよく含み、去痰や潤い作用を持ちます。
また、咽頭乾燥、咳、咽頭痛、喘息、肺炎などに対しては、漢方医学では昔から豊富な治療経験があり、麦門冬・半夏・人参・桔梗・甘草・陳皮・竹茹・地黄・当帰などの生薬が多く用いられます。
3.乾燥肌・敏感肌と皮膚炎
空気の乾燥から、皮膚のかさつきや乾きに悩む方は多くいらっしゃいますが、皮膚の乾燥に気づかない方も実はいます。皮膚の一番外側の表面には皮脂膜があり、その下に角質層があります。角質層には皮脂、天然保湿因子、角質細胞間脂質があり、皮膚を乾燥から守るために重要な働きをしています。
①外部“燥邪(そうじゃ)”―内生“燥邪”―“風邪(ふうじゃ)”
皮膚の表面が乾燥してくると皮脂膜を保てなくなり皮膚の水分が蒸発しやすくなります。また、角質層の保湿因子が減少し皮膚が水分を保持できなり乾燥肌を引き起こします。乾燥した皮膚では角質層の真下にかゆみを伝達するC線維という知覚神経がのびてきているため、外部からの軽微な刺激にも敏感に反応してかゆみを誘発します。保湿することは皮膚を乾燥から守ると同時にかゆみを予防するためにもとても大切です。
漢方医学からみれば、寒い冬には陽気が収斂し、皮膚に気血の循環が乏しくなりやすく、皮膚のうるおいが足りなくなります。「外部の燥邪(乾いた空気)」と「内部の燥邪(循環不足による保湿因子の減少)」が「敏感肌・痒み」をつくるのです。 また、代謝力の乏しい老人や婦人は、もともとの腎気が弱いため、皮膚の再生力が弱く、よりうるおい不足に陥りがちで乾燥肌や敏感肌、皮膚炎になりやすいという結果に。
②“燥から風・火”――乾燥肌から敏感肌、乾燥肌から皮膚炎
中医学には「燥生風」という言葉あります。冬には外気が寒く、空気が乾燥しており、乾燥肌の上にさらに暖房やお風呂で温めることにより、温暖・乾燥・静電気などの刺激が加わり、よりかゆみが出やすいのです。また、掻くことで皮膚の表層が搔き壊され、より敏感に、よりかゆくなります。その結果、皮膚炎が生じることになります。漢方医学では、皮膚炎の段階になれば「燥火が生じている」と称します。乾燥肌が要因となり、アトピー性皮膚炎が冬に悪くなるケースも少なくありません。
③皮膚乾燥・乾燥肌・皮膚炎と漢方薬治療
「気・血・水」、また「燥・風・火」から、皮膚乾燥・乾燥肌・皮膚炎の漢方治療を見ると非常にわかりやすくなります。
気:腎気不足、代謝低下には補腎薬の漢方薬地黄・山薬・山茱萸・沢瀉などが有効
血:補血剤の漢方薬である当帰・地黄・芍薬・川芎(=四物湯)をベースに治療するとよい
水:水分代謝力を高める黄耆・茯苓・沢瀉などがよく用いられる
燥:多くは血を補って、血燥を治療する。やはり、当帰・地黄・芍薬・何首烏・甘草などの漢方薬がよい
風:防風、荊芥、蒺藜子などで風を去り、かゆみを止める
火:皮膚の発赤・湿疹(皮膚炎)、強い掻痒には、黄連・黄芩・山梔子・黄柏・苦参・石膏などの清熱解毒の漢方薬を用いる
④冬は保湿をしましょう
乾燥肌やそれに起因する諸症状の治療や予防には保湿が大切です。
保湿剤として一般的にはワセリン、尿素入り外用剤、ヘパリン類似物質含有外用剤があり、剤形には軟膏、クリーム、乳液、ローションがあります。保湿剤は強くすり込んだり押し付けたりせず、やさしく撫でるように塗ると刺激を避けられます。
また、日常的に皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぐ工夫が必要です。お風呂のお湯の温度は高すぎないようにし、長湯を避けましょう。その他にも適当に水分を摂ったり、適正量の脂肪やコラーゲンを含む食品を摂ることも、乾燥肌対策の役に立ちます。
このように、冬の寒さや乾燥は人体に様々な影響をもたらしますが、正しく自分の生活環境を整備することにより不調を回避することができます。もちろん、少しでも体調の変化を感じたら悪化する前に早めの治療を。当店では日常的に予防も兼ねて漢方薬を取り入れているお客様が多くいらっしゃいます。薬だけでなく薬膳や漢方茶から始めてみるのもおすすめです。
【関連記事】
>>記事「アトピー性皮膚炎の原因と漢方薬」
>>記事「入浴で疲れを癒やしてリラックス|漢方薬局の入浴パック」
■オンライン相談について>>「オンライン漢方相談|来店なしでお薬お届け」
■漢方相談予約・お問合せ>>「お問い合わせ(LINE,WeChat,Skype,メールフォーム」