「耳鳴りに八味丸/八味地黄丸が効果があると聞いたので...」

とお問い合わせいただくことがよくありますが、耳鳴りに効果的な漢方薬はさまざまです。

発症要因やタイミングに合わせて漢方薬を選ぶことで著効した一例として、

高音の耳鳴が半年ほど続いていた60代男性の症例を報告いたします。

漢方服用４か月で、耳鳴が改善に向かいました。

 

主訴｜耳鳴りを止めたい...

耳鳴（左側のみ）

半年くらい前から発症、キーンという高音がする。

 

症候｜静かな時に耳鳴

・就寝時などリラックスした状態、静かな環境で耳鳴

・集中している時は気づかないし痛みもない

・立ち上がる時にフワフワ感がある

脈：浮、数、実大

腹部：左右胸脇苦満、心下痞、小腹やや軟

舌質：中、正常紅、大、歯痕あり、苔：やや湿薄白

 

平素

睡眠：6時間、たまに夢、中途覚醒1回

食欲：旺盛、肉類をよく食べる、早食い（15分）、ストレスで過食傾向（夜に菓子類）

アルコール：週6～7回、ワイン1杯程度

飲水：1日1000ml、コーヒー、夏は冷たいものや氷水を好む

便通：1日1回、普通

汗：緊張時に手足のひらと脇にかきやすい

精神：緊張しやすくイライラしやすい

 

既往歴

2020.2　前立腺肥大手術

 

 

漢方治療の経過｜服用後2週目くらいから変化が！

＜初回：2021年7月＞

【体質判断】

柴胡体質：左右胸脇苦満、緊張・イライラしやすい

【お選びした漢方薬】

柴胡加竜骨牡蛎湯(顆粒剤)　　21日分

【生活指導】

お菓子を食べ過ぎないよう心掛けるあまり、それにばかりとらわれてしまう様子。

読書など他のことに目を向けてみることを勧めました。

 

＜2回目　服用3週間＞

服用後2週目くらいから徐々に耳鳴が軽快。

最も酷かった頃を10とすると今は「9」にまで改善したとのこと。

音の大きさも減った気がする。

睡眠は特に変わりなく、症状は起床時少なめ、疲れるとまた出てくる。

会社で受けたヘルスサポートにより食事量を減量。

食後の菓子類も止め、音楽やTVを楽しむことにしたそう。

運動は在宅ワークの日に朝晩1時間ずつウォーキングをし、ここ2週間ほどで体重が1㎏ほど落ちた。コレステロール値高め。

⇒「冠元顆粒」を追加し、血行を良くしていくことでさらなる耳鳴の改善を図る

漢方薬：柴胡加竜骨牡蛎湯、冠元顆粒(顆粒剤)　　21日分

 

＜3回目　服用6週間＞

耳鳴がかなり改善し気にならなくなってきた(10→5に)。

睡眠、ストレス状態はあまり変わりないが意識的に気分転換をするようにしているとのこと。

冠元顆粒は1日1回服用中。

⇒かなり改善してきたということで、柴胡加竜骨牡蛎湯を基本1日2回服用に減薬。調子の悪い時は3回服用するよう指示。

漢方薬：柴胡加竜骨牡蛎湯(顆粒剤)　35日分

 

＜4回目　服用2か月＞

減薬したらまた耳鳴りが出たので、結局ほとんど毎日3回服用した。

コレステロール値が高めということで、食事、運動（ウォーキング）に気を付けている。

体重3㎏減、腹囲も3㎝細くなったため冠元顆粒は服用してない。

柴胡加竜骨牡蛎湯は1日3回に戻すよう指示。

漢方薬： 柴胡加竜骨牡蛎湯(顆粒剤)　39日分

 

＜5回目　服用4か月＞

落ち着いている時、調子がいい時は飲み忘れてしまうほど。

初回来店時に比べてずいぶんよくなったとのこと。

⇒今回多めに漢方薬をお渡しして、卒業。

漢方薬：柴胡加竜骨牡蛎湯(顆粒剤)　40日分

 

考察

耳鳴には「自覚的耳鳴」と「他覚的耳鳴」があり、多くは自覚的耳鳴と言われています。

またその原因として騒音、加齢、薬物、ストレス、メニエール病などいろいろ考えられ、患者さんの体質とその原因によって合う漢方薬が変わります。

今回の患者様は60代で仕事による緊張が続いている、コロナによる不安がある、ストレスで過食傾向、考え込みやすいことから、神経性の耳鳴であると推測しました。

そして、左右胸脇苦満、心下痞、食欲旺盛であることから柴胡加竜骨牡蛎湯をチョイス。

2回目はコレステロール値が気になるということもあり、冠元顆粒を追加しました。

年齢から八味丸など地黄丸系が使われがちですが、発症要因やタイミングをよく観察し、個人に合った漢方薬を選ぶことが大事になってきます。

薬剤師・産業カウンセラー入多裕

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