2025.05.19頭痛・自律神経・精神神経疾患
不明熱とは?原因・治療・漢方での完治症例まで徹底解説

「検査では異常がないのに、熱が下がらない……」そんなお悩みを抱えていませんか?
不明熱(FUO:Fever of Unknown Origin)は、原因が特定できないまま発熱が続く状態を指します。実際に検査を受けても感染症や膠原病といった原因が見つからず、治療が進まないケースが少なくありません。
本記事では、
- ・不明熱の定義や症状の種類
- ・一般的な治療方法とその難しさ
- ・漢方医学から見た不明熱の捉え方と治し方
- ・富士堂漢方薬局における不明熱の漢方治療と完治した症例
について、具体的にご紹介します。
「証」や「体質」に注目する漢方独自の視点は、特に検査では原因が見つからない不明熱の方にとって、治療のヒントになるかもしれません。
不明熱とは?|原因と症状
不明熱の定義と診断の難しさ
不明熱とは、以下のような基準に当てはまる状態です。
・38.3℃以上の発熱が3週間以上続く
・検査や治療を1週間以上行っても明確な原因が見つからない
現代医療でも診断が難しく、「検査をしても原因不明の熱」「診断がつかない熱」として経過観察になるケースも珍しくありません。
不明熱の主な原因(分類と鑑別)
病院ではまず以下のような要因を中心に鑑別診断が行われます:
- ・感染症(結核、ウイルス性疾患など)
- ・膠原病(リウマチ・SLEなど自己免疫疾患)
- ・悪性腫瘍(がん、リンパ腫など)
- ・その他(薬剤熱、ストレス性、心因性など)
しかし、検査では異常が見つからない不明熱も存在し、原因が「体質」や「慢性疲労」「ストレス」に起因していると考える場合もあります。
こんな症状が続いたら要注意
- ・微熱〜高熱が数週間にわたって続く
- ・抗生物質などの治療が効かない
- ・倦怠感・寝汗・体重減少・動悸などを伴う
- ・血液検査や画像検査でも異常がない
「よくある風邪」と思って放置してしまうと、体に負担がかかり続け、慢性化するリスクがあります。また、子供の場合は、子供特有の病気が隠れていることもあるため、注意深く経過を観察する必要があります。
不明熱に対する一般的な治療方法
西洋医学での治療アプローチ
不明熱の治療は、まず「見逃してはいけない病気」の除外から始まります。たとえば下記のような病気が挙げられます。
- ・感染症
- ・悪性腫瘍
- ・膠原病(自己免疫疾患)
- ・その他(広義・狭義の自己炎症症候群)
診断がつけば、それに合わせて薬物治療や入院治療が行われます。しかし、原因がつかめないまま、経過観察になる場合もあります。
セルフケアや生活習慣の見直し
不明熱の背景にあるストレス・自律神経の乱れ・慢性疲労が疑われる場合には、
- 1.睡眠の質を上げる
- 2.冷えを改善する
- 3.食生活の見直し
- 4.ストレスケア
などのセルフケアをしていきます。一方、これらはもちろん大切ですが、体の内側にある「原因不明の不調」にどう対処するかが大きな課題となります。
不明熱に対する漢方薬での治療法
漢方医学における不明熱の捉え方
漢方医学では、「不明熱」を単に熱の症状としてではなく、体全体のバランスの乱れとして捉えるのが特徴です。例えば、以下のような体質があります。
- ・陽盛(ようせい):体内の陽気(熱を生み出す力)が過剰になり、熱やほてりが生じること
- ・気虚(ききょ):エネルギー不足により熱を制御する力が低下し、熱が出ること
- ・陰虚(いんきょ):潤い不足によって体が熱を持つこと
- ・気滞(きたい):ストレスなどで気(生命活動を支えるエネルギー)が滞り、内部で熱化すること
- ・瘀血(おけつ):血流の滞りが原因で熱感が発生すること
これらは不明熱の原因を考察するための材料の一例に過ぎませんが、このように、漢方では「なぜ熱が出るのか?」を体質ごとに分析し、そこに合った処方を考えていきます。
SCI方証医学・体質タイプ別に見る不明熱の分類
前項では、漢方医学における一般的な熱の体質分類についてご紹介しましたが、実際の臨床においては、こうした分類のみでは治療方針を決定するうえでの情報として不十分である場合が少なくありません。
許志泉先生(富士堂漢方医学研究所・富士堂漢方薬局)が長年の研究及び臨床経験に基づいて提唱したSCI方証医学の視点から、より詳細な体質チェックを行っています。SCI方証医学とは、従来の中医学・漢方医学を西洋医学の概念と結合させて、「症候・体質・病」から客観的に分析するメソッドです。
この理論を活用することで、一人ひとりの体質に的確かつ精密に適合する漢方薬を選び出すことが可能となり、より効果的な漢方治療を実現しています。
例えばSCI(証候分類)を活用して、熱を以下のようにタイプ分けし、それぞれに適合する生薬や傾向を判断します:
- ・柴胡証:肋骨下の張りや圧痛があり、冷えと熱感を繰り返すタイプの熱
- ・石膏証:熱感が強く、口渇で冷水を欲しがり、汗が多く出るタイプの熱
- ・大黄証:便秘傾向で、イライラして落ち着かず、午後に上がるタイプの熱
- ・桂枝証:衝逆症を伴う熱(微熱が多い。逆上せ、動悸、頭痛、身体痛などを伴う)
- ・地黄証:下腹部の筋力低下を伴うほてり、熱感
上記はあくまでも具体例の一部であり、また「柴胡+石膏」などの複数の特徴が合わさった複合体質も多く見受けられます。
不明熱に使われる代表的な漢方薬
不明熱に使われる漢方は、例えば以下のものがあります:
- ・柴胡桂枝乾姜湯:ストレスや神経過敏からくる微熱に
- ・補中益気湯:疲れやすく、食欲もない人に
- ・加味逍遥散:女性に多い「気の滞り」タイプに
- ・桂枝茯苓丸:血の巡りが悪く、冷えやのぼせがある方に
- ・黄連解毒湯:イライラやのぼせを伴う強い熱感に
- ・小柴胡湯: 悪寒と熱感を繰り返し、体の奥に炎症がくすぶっているような状態に
- ・抑肝散:神経の高ぶりやイライラがある方に。 子どもや高齢者に多い
- ・大承気湯:体力があり便秘で、顔が赤いような強い熱の症状に
- ・白虎加人参湯:のどが渇いて冷たい水をたくさん飲みたがる場合に
- ・柴胡加竜骨牡蛎湯:不安や緊張が続くことで微熱が出るような場合に
- ・竹茹温胆湯:痰がからみやすく、精神的な不安定さや疲労感を伴う場合に
上記処方は、あくまでも一例となります。体質と証に合わない処方では、逆効果になることもあるため、専門家のアドバイスのもとでの服用が大切です。
富士堂漢方薬局における不明熱の治療症例
今回は、30代女性が10ヶ月以上にわたり不明熱を繰り返し、病院では診断がつかず西洋薬での対症療法しかなかった状態から、漢方で症状が改善した症例をご紹介します。
10ヶ月以上にわたり、微熱〜38℃の発熱と咽頭痛が繰り返し現れ、病院での血液検査では白血球数やCRPの軽度上昇以外に明確な異常は見つかりませんでした。抗炎症薬やステロイドで一時的に熱は下がるものの、服用をやめると再発を繰り返す状態で、「不明熱の診断がつかず、治療の出口が見えない不安」を抱えてご相談に来られました。
患者情報
年齢・性別:30歳 女性
身長・体重・BMI:160cm・55kg・BMI 21.48(標準体型)
生活背景:仕事が忙しく、精神的ストレスが強かった
現病歴と経過
※X年=初回来店時
X-1年7月頃から多忙な仕事と精神的ストレスに悩まされていました。その翌月、突然の発熱(37.5〜38.3℃)、悪寒、咽頭痛が出現。以降、発熱は以下のように進行していきました。
X-1年8月〜11月:毎月3回の発熱。1回の発熱が1週間続く
X-1年12月〜X年4月:週1回の発熱
X年5月〜:毎日微熱〜38℃以上の発熱に。左首・肩・脇への痛みも出現し、富士堂漢方薬局に来店。
病院での精密検査では、発熱時の白血球増加(WBC)とCRP上昇以外に異常は見られず、以下の疾患は除外されました。
・自己免疫性疾患(SLEなどの膠原病)
・悪性腫瘍(白血病・リンパ腫など)
・サイトメガロウイルス感染
・その他の感染症や炎症性疾患
その結果、「原因不明の発熱(不明熱)」とされ、プレドニン(ステロイド)25mgとコルヒチン1mgで一時的に熱を下げる対症療法が行われていましたが、服薬をやめると熱が再燃する状態が続いていました。
来店時の症状
来店時(X年5月末)には、以下のような症状が見られました。
- ・ほぼ毎日の発熱。発熱は夕方に多く、汗をかき熱感がある(寒気なし)
- ・発熱時に咽頭痛、頭痛、左首〜脇への疼痛
- ・便秘傾向(2日に1回、やや硬い)
- ・水分摂取:1.5〜2L/日、尿:4〜5回/日(黄色)
- ・脈:力中、舌:暗紅・苔薄黄、腹:腹厚力中 心窩部にやや抵抗感あり
- ・月経は順調、関節痛や皮疹・口内炎はなし
SCI方証医学における見立てと治療
SCI(証候・体質・病)分類に基づき、以下のように処方を決定しました。
症候
・寒気を伴わない発熱、口渇、汗→石膏証、陽明病期(初証)?
・心下痞鞕、身体痛→人参証?
➡白虎加人参湯の証
・便秘、腹厚力中、夕方の熱発、尿の回数が少ない、尿黄
→大黄証、陽明病期(本証)?
・便が硬い→芒硝証
➡大承気湯、調胃承気湯の証?
体質
・平素の状況が不明
→不明体質
病
・熱病の陽明病期
陽明病の初証(熱、汗、煩渇)と本証(腹満、便秘、熱)にまたがる病態
→白虎湯(加人参)証+大承気湯証
➤以上の所見を総合的に検討し、「白虎加人参湯合大承気湯」を選択し、本処方にて治療を開始しました。

治療の経過
・服用5日後には発熱がぴたりと止まり、便通も改善
・2週間後の再診では、熱が一度も出なかったことを確認
・3ヶ月後:体調安定のため、治療終了
・6ヶ月後・2年後:電話フォローで再燃なしを確認
このように、ステロイドやコルヒチンでは対症療法しかできなかった不明熱が、漢方の視点で体質から整えたことで自然と回復へとつながりました。
なぜ漢方で不明熱に対応できたのか
西洋医学では、治療方針は明確な「診断名」に基づいて決定されます。一方、漢方では“今この瞬間に現れている症状や体質”を手がかりに、体全体のバランスを見ながら治療を進めていきます。そのため、「検査では異常が見つからないのに、毎日熱が出る」といった、いわゆる不明熱にも対応できる可能性があります。
今回の症例においても、西洋医学的には最終的な診断名がつかず、炎症反応に対してステロイドによる対症療法が行われていました。しかし、漢方では現時点での症状や体質、そして「熱病の陽明病期」といった医学的背景をもとに、SCI(症候・体質・病態)それぞれの観点から総合的に検討することで、的確な「証(体質と症状を統合して導かれる漢方特有の診断枠)」を導き、治療することができました。
Q&A:病院と漢方、どちらに相談すべき?
まずは病院での精密検査が大前提
まずは感染症や膠原病、悪性腫瘍など、重篤な疾患がないかを病院で確認することが必須です。診断がつけば、それに合わせた薬物治療や入院治療を受けることができます。
漢方は原因がわからない、慢性化した不明熱に向いている
漢方は、たとえば以下のような方におすすめです:
・検査で異常がなかった方
・ストレスや痛みなど、自覚的な不調を感じる方
・病院で経過観察と言われ、不安を感じている方
富士堂漢方薬局ではこんなサポートを提供
・伝統的な東洋医学に、西洋医学の知見も取り入れた丁寧な体質カウンセリング
・オンライン相談・郵送対応で全国から相談可能
・不明熱向けのオーダーメイド漢方薬をご提案
最後に
不明熱は「原因がわからない熱」とされるため、患者さん自身も周囲も困惑しやすく、治療の手立てが限られているように感じるかもしれません。
ですが、体質や症候からアプローチできる漢方は、こうした“診断がつかない病態”にもひとつの答えを示せる方法です。
自身の体の声に耳を傾け、信頼できる相談先を見つけることから始めてみてください。
もし、「これ以上どうすればいいかわからない」と感じている方がいらっしゃれば、富士堂漢方薬局ではあなたの体質や状態に合せた丁寧な漢方相談を行っていますので、どうぞお気軽にご相談ください。
記事監修

許 志泉 所長 医学博士
【経歴】
1987年 南京中医薬大学中医学部 卒
1987年~ 南京中医薬大学 内科医師 助手、講師、南京中医薬大学学報編集など歴任 1996年医学修士号取得。臨床や研究に携わる
1998年 順天堂大学医学部・膠原病リウマチ内科学 入局
2003年 順天堂大学 医学博士取得
2004年~ 富士堂漢方医学研究所(元・富士堂東洋医学研究所) 所長
【所属学会】
日本東洋医学会、日本リウマチ学会、日本臨床免疫学会、東亜医学協会
【研究業績/著作】※一部抜粋
1. 著作:許志泉,漢方求真 体質・症候・病から探究する薬方の証,東京,桐書房,2018年10月
2. 著作:黄 煌、範欣生、施 誠、傅 雷、許志泉,張秀春、周建英、徐 力,方薬心悟――名中医処方用薬技巧(訳:方剤、漢方薬における心得――有名中医師による漢方の使用の技),南京,江蘇科学技術出版社,1999年
3. 著作:項平、許志泉,常見病毒病的中医診治(よく見られるウイルス感染病における中医学の診断と治療),北京,人民衛生出版社,1998年6月
➤業績一覧はこちらから
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