2024.07.26所長・COVID-19記事
【第74回東洋医学会学術総会】SCI方証医学「衝逆症症例」|所長報告
「漢方ってどんな病気に使われるの?」「そりゃあもう、いろんな病気だね。垣根はないよ。」
まさにこの会話を体現するかのように、東洋医学会学術総会ではありとあらゆる症例についての報告、発表がなされています。
今回は2024年5月31日~6月2日に渡って開催された第74回日本東洋医学会学術総会にて、所長の許志泉先生が12時間ごとに発症する衝逆症を治療したという珍しい症例を発表しました。
まず、今回の総会は「東洋医学を通した「和」の構築~病人さんに還る~」をテーマに、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)での開催となり、約4000名が参加しました。各分野で研鑽を積んだ先生方が活気ある討論・発表を行う会場は、間違いなく東洋医学の最前線と言える場所だったことでしょう。
そんな中、6月1日の一般演題 8「伝統医学的病態・診断・治療②」にて許先生による発表が行われました。
タイトルは「12 時間毎に発作する衝逆症に八味丸料が著効した 1 例報告」。
頭痛・顔面や手の強いほてり・動悸などの衝逆症がきっかり12時間おきに出現する患者の治療について、その経過と結果・考察を発表し討論の場を設けました。
今回はその症例についてみていきましょう。
症例
初診時: 87歳女性 146㎝、52Kg BMI=24.39
主訴: 12時間ごとに発作する衝逆症(頭痛、顔面や手の強いほてり、動悸など)4週間
現病歴: 元々は大変活発に社会活動をしていた。しかし6か月ほど前から膝の疼痛(変形性膝関節症)の増悪により外出困難に。初診年の7月初めから夜間2~6時、午後2~6時という一日2回の時間帯に上記の衝逆症が出現。
多岐にわたる検査を受けたが問題は見つからず、自律神経失調症のため治療法はないと言われ、大変困っている。
注目すべき所見
①12時間毎に発作する衝逆症
⇒夜間2時、午後2時に時間通りに突然のぼせて、顔面部や手に強いほてりが出現するのと同時に、頭痛/動悸を伴い、眠れず、何もできない状態が4時間持続してようやく収まる。症状があまりに強く我慢できないため、家族が氷で顔面部や手を冷やし、1時間ほどかけて症状を落ち着かせる。本人のみならず家族も大変に困っている。
②その他
⇒夜間に口やのどの乾燥(砂漠の砂ような感じ)、夜間頻尿、高血圧(183/72)、膝痛で歩行困難、不眠、憂鬱、集中力低下、無汗。
では、これらの症状を治すためにはどのような処方が有効でしょうか?
許先生の提唱するSCI方証医学を用いてみていきましょう。
まずかみ砕いて説明すると、SCI方証医学とは、患者さんの症候(Symptom)・体質(Constitution)・病(Illness)のそれぞれに当てはまる生薬や方剤を一度洗い出し、その中でかぶっているものを採用し、否定材料があるものを排除して最終的に処方を決めるというものです。この時のかぶっているもの、つまり重なり合った中心点を証(しょう)と呼び、例えば「この人には桂枝証がみられる」という文言はざっくり言うとつまり「この人には桂枝を使用するのにふさわしい判断材料が揃っている」という意味になります。
また、東洋医学では様々な体質分類方法が存在しますが、ここでは生薬を用いた体質分類を使用します。
それでは、実際にこの症例をSCI方証医学モデルに当てはめると以下のようになり、八味丸証の特徴が多くならぶ結果となりました。
先述の注目すべき所見からは以下の要素が抽出できます。
①12時間毎に発作する衝逆症
衝逆症には桂枝証が圧倒的に多く、「桂枝:平衝降逆」と古くから言われている。それを裏付けるものとして、今回の症例では『上への衝逆(逆上せ、顔面発赤、動悸、頭痛、など)』と『表への衝逆(発熱、汗出、頭痛など)』が見られる。
②夜間に口やのどの乾燥(砂漠の砂ような感じ)、夜間頻尿、高血圧(183/72)、膝痛で歩行困難、不眠、憂鬱、集中力低下、無汗
小腹不仁でありさらに下記のうちのいずれかを伴う場合は地黄証となる。今回は煩熱、乾燥、下半身筋肉軟弱無力がこれに当てはまる。
・煩熱(熱感・火照り・発赤・火照って落ち着かない)
・乾燥(口舌・咽頭・便・皮膚の乾燥や落屑)
・出血症・出血傾向
・血痺
・下半身(腰・骨盤・足)筋肉の軟弱無力
・便秘
⇒処方:八味丸料(煎じ薬)
経過
3~4日間で発作的なのぼせ、ほてり、動悸、頭痛などの症状は完全に消失し、3週間の服薬で膝痛、咽頭の乾燥感も軽減しました。患者様とご家族が大変喜んでいたのが印象的でした。
許先生の総評
「今回の症例のような衝逆症は珍しく、未だ知見が少ないが、八味丸証の一タイプとして現れることもあることがわかります。そのため、八味丸の適応病態に追加できると考えられるでしょう。
SCI方証医学を用いることで、ぴったり合う処方を導く出せるため、臨床での応用性が高いと言えます。
また、今回の総会では、多くの先生と親しく交流できて大変充実した時間を過ごせました。」
関連項目
>>その他学会発表記録についてはこちら「【東洋医学会シンポジウム】漢方医学の証、漢方の効き方|所長報告」
>>SCI方証医学を学びたい方に!書籍発売中「許先生「漢方求真」出版記念講義|東京中医薬研究会定例会」
>>SCIに基づく漢方治療症例でよく読まれている記事「緑内障視野欠損1/3以上改善| 眼科医もビックリ」
>>許志泉先生の研究一覧について「所長研究業績」
■漢方相談予約・お問合せ>>「お問い合わせ(LINE,WeChat,Skype,メールフォーム)」
■オンライン相談について詳しくはこちら>>「オンライン漢方相談|来店なしでお薬お届け」
まさにこの会話を体現するかのように、東洋医学会学術総会ではありとあらゆる症例についての報告、発表がなされています。
今回は2024年5月31日~6月2日に渡って開催された第74回日本東洋医学会学術総会にて、所長の許志泉先生が12時間ごとに発症する衝逆症を治療したという珍しい症例を発表しました。
まず、今回の総会は「東洋医学を通した「和」の構築~病人さんに還る~」をテーマに、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)での開催となり、約4000名が参加しました。各分野で研鑽を積んだ先生方が活気ある討論・発表を行う会場は、間違いなく東洋医学の最前線と言える場所だったことでしょう。
そんな中、6月1日の一般演題 8「伝統医学的病態・診断・治療②」にて許先生による発表が行われました。
タイトルは「12 時間毎に発作する衝逆症に八味丸料が著効した 1 例報告」。
頭痛・顔面や手の強いほてり・動悸などの衝逆症がきっかり12時間おきに出現する患者の治療について、その経過と結果・考察を発表し討論の場を設けました。
今回はその症例についてみていきましょう。
症例
初診時: 87歳女性 146㎝、52Kg BMI=24.39
主訴: 12時間ごとに発作する衝逆症(頭痛、顔面や手の強いほてり、動悸など)4週間
現病歴: 元々は大変活発に社会活動をしていた。しかし6か月ほど前から膝の疼痛(変形性膝関節症)の増悪により外出困難に。初診年の7月初めから夜間2~6時、午後2~6時という一日2回の時間帯に上記の衝逆症が出現。
多岐にわたる検査を受けたが問題は見つからず、自律神経失調症のため治療法はないと言われ、大変困っている。
注目すべき所見
①12時間毎に発作する衝逆症
⇒夜間2時、午後2時に時間通りに突然のぼせて、顔面部や手に強いほてりが出現するのと同時に、頭痛/動悸を伴い、眠れず、何もできない状態が4時間持続してようやく収まる。症状があまりに強く我慢できないため、家族が氷で顔面部や手を冷やし、1時間ほどかけて症状を落ち着かせる。本人のみならず家族も大変に困っている。
②その他
⇒夜間に口やのどの乾燥(砂漠の砂ような感じ)、夜間頻尿、高血圧(183/72)、膝痛で歩行困難、不眠、憂鬱、集中力低下、無汗。
では、これらの症状を治すためにはどのような処方が有効でしょうか?
許先生の提唱するSCI方証医学を用いてみていきましょう。
まずかみ砕いて説明すると、SCI方証医学とは、患者さんの症候(Symptom)・体質(Constitution)・病(Illness)のそれぞれに当てはまる生薬や方剤を一度洗い出し、その中でかぶっているものを採用し、否定材料があるものを排除して最終的に処方を決めるというものです。この時のかぶっているもの、つまり重なり合った中心点を証(しょう)と呼び、例えば「この人には桂枝証がみられる」という文言はざっくり言うとつまり「この人には桂枝を使用するのにふさわしい判断材料が揃っている」という意味になります。
また、東洋医学では様々な体質分類方法が存在しますが、ここでは生薬を用いた体質分類を使用します。
それでは、実際にこの症例をSCI方証医学モデルに当てはめると以下のようになり、八味丸証の特徴が多くならぶ結果となりました。
先述の注目すべき所見からは以下の要素が抽出できます。
①12時間毎に発作する衝逆症
衝逆症には桂枝証が圧倒的に多く、「桂枝:平衝降逆」と古くから言われている。それを裏付けるものとして、今回の症例では『上への衝逆(逆上せ、顔面発赤、動悸、頭痛、など)』と『表への衝逆(発熱、汗出、頭痛など)』が見られる。
②夜間に口やのどの乾燥(砂漠の砂ような感じ)、夜間頻尿、高血圧(183/72)、膝痛で歩行困難、不眠、憂鬱、集中力低下、無汗
小腹不仁でありさらに下記のうちのいずれかを伴う場合は地黄証となる。今回は煩熱、乾燥、下半身筋肉軟弱無力がこれに当てはまる。
・煩熱(熱感・火照り・発赤・火照って落ち着かない)
・乾燥(口舌・咽頭・便・皮膚の乾燥や落屑)
・出血症・出血傾向
・血痺
・下半身(腰・骨盤・足)筋肉の軟弱無力
・便秘
⇒処方:八味丸料(煎じ薬)
経過
3~4日間で発作的なのぼせ、ほてり、動悸、頭痛などの症状は完全に消失し、3週間の服薬で膝痛、咽頭の乾燥感も軽減しました。患者様とご家族が大変喜んでいたのが印象的でした。
許先生の総評
「今回の症例のような衝逆症は珍しく、未だ知見が少ないが、八味丸証の一タイプとして現れることもあることがわかります。そのため、八味丸の適応病態に追加できると考えられるでしょう。
SCI方証医学を用いることで、ぴったり合う処方を導く出せるため、臨床での応用性が高いと言えます。
また、今回の総会では、多くの先生と親しく交流できて大変充実した時間を過ごせました。」
関連項目
>>その他学会発表記録についてはこちら「【東洋医学会シンポジウム】漢方医学の証、漢方の効き方|所長報告」
>>SCI方証医学を学びたい方に!書籍発売中「許先生「漢方求真」出版記念講義|東京中医薬研究会定例会」
>>SCIに基づく漢方治療症例でよく読まれている記事「緑内障視野欠損1/3以上改善| 眼科医もビックリ」
>>許志泉先生の研究一覧について「所長研究業績」
■漢方相談予約・お問合せ>>「お問い合わせ(LINE,WeChat,Skype,メールフォーム)」
■オンライン相談について詳しくはこちら>>「オンライン漢方相談|来店なしでお薬お届け」
Category
Archive
- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年11月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年10月
- 2016年6月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年6月
- 2015年3月
- 2014年7月
- 2014年3月
- 2013年12月
- 2013年8月
- 2012年12月
- 2012年10月