2023.06.21>自律神経
梅雨の不調と漢方薬|頭痛・だるさ・自律神経の乱れ
毎年やってくるじめじめとした季節、今回は気象病、中でも梅雨に起こりがちな不調とそれに使われる漢方薬についてお話したいと思います。
天気や気候の変化により起こる体調不良を“気象病”、その中でも特に片頭痛や三叉神経痛、腰痛など慢性的な痛みが増強するものを“天気痛”といいます。
こうした気象病が起こる原因として、気圧、気温、湿度の3つが考えられており、これらの変動により自律神経のバランスが乱れ、体に悪影響を及ぼすことでいろんな症状が発生することが知られています。
また、耳の奥にある内耳が気圧の変動をキャッチし、自律神経に影響を及ぼしているという説もあります。
天気が悪いからといって必ず不調をきたすわけではありませんが、梅雨の時期は特に体の中に湿気が溜まりやすく、食欲が落ちる、眠くて体が重い、腰や膝など関節が痛む、めまいがして気持ち悪いなどの症状を訴えいろんな方がご来店されます。
東洋医学
湿気(湿邪)が頭部に停滞することで、頭がぼーっとしたりふわふわと眩暈がしたり、重い物がかぶさったような頭痛がすることがある。
西洋医学
気圧の変化を内耳がキャッチすることで自律神経が乱れ、痛みを悪化させる。潮の満ち引きのように、気圧も1日に2回の変動があり(大気潮汐)、変動幅が大きくなると、人によっては気象病が発症しやすくなる。
よく使われる漢方薬
めまいや頭痛に
+頭が重い、肩こり、耳鳴り、胃腸が弱い、足の冷え→半夏白朮天麻湯
+動悸、息切れ、耳鳴り、肩や背中の痛み→苓桂朮甘湯
+頭が重い、憂鬱気味、肩がこる→川芎茶調散
+偏頭痛、吐き気、唾が多い、手足の冷え→呉茱萸湯
など
東洋医学
余分な水が体から排出されずに脾胃に停滞することや、大気中の冷気(寒邪)により、食欲が落ち、時にムカムカして吐き気を催す。
西洋医学
食欲や消化活動に関わる神経系は、自律神経のうちの副交感神経であることが知られており、副交感神経が優位になることで食欲が湧いてくるが急激な気温や湿度の変化により、この自律神経が乱れがちになることから食欲不振に陥ると考えられている。また気温が高いと、発汗、体温上昇、心拍数の増加などに関わる交感神経が優位になり、相対的に副交感神経が関わる食欲の方が落ちることも。
よく使われる漢方薬
食欲不振、吐き気に
+鳩尾(みぞおち)下が痞え、疲れやすく憂鬱気味→健胃顆粒
+お腹が張って痛む、下痢気味、暑気あたり→藿香正気散
+鳩尾の下が痞え、お腹がゴロゴロ鳴る→半夏瀉心湯
など
東洋医学
梅雨の湿気(湿邪)や不要な水がお腹辺りに停滞すると水毒が生じ、お腹が冷えて痛んだり下痢しやすくなったりすることがある。
西洋医学
気圧や気温の大きな変動により自律神経に過剰に働き乱れることでさまざまな不調が出る。また、冷たいものを摂取することでお腹が冷え、下痢をする、食欲が落ちるなどもよく見られる。
よく使われる漢方薬
お腹の冷え、下痢に
+疲れやすい、めまい、むくみやすい→真武湯
+慢性の下痢、腹力がない、体重減少、消化不良→参苓白朮散
+お腹が張る、腹力がない、ガス腹、腹痛→大建中湯
+お腹が張って腹痛、便秘または渋り腹を伴う下痢→桂枝加芍薬湯
など
東洋医学
大気中の湿気(湿邪)や冷気(寒邪)などが合わさり、手足の関節に停滞することで、関節痛や関節が曲げにくい、こわばりなどが発生する。
西洋医学
気圧の低下(低気圧)や湿度の上昇により自律神経が乱れ、痛みを悪化させたりする。
よく使われる漢方薬
関節の痛みに
+痛みは激しくない、屈伸しにくい、汗をかきにくい→薏苡仁湯
+むくみ、口が渇く、熱感、急激な悪化→越婢加朮湯
+むくみ、冷えやすい、尿があまり出ない、動悸→桂枝加苓朮附湯
など
東洋医学
湿気(湿邪)、余分な水、冷え(寒邪)が組み合わさり全身の皮膚に広がり停滞することで、むくみを起こしやすくなる。
西洋医学
梅雨は気温が低く湿度が高いため、皮膚の水分が蒸発しにくくなる『不感蒸泄(ふかんじょうせつ、transepidermal water loss;TEWL)』に陥りやすい気象条件だと言われています。この時季水分摂取が多くなる割に体内の水分が汗として排出しにくくなり、結果として余分な水分が体内に溜ってしまいがちです。また冷房の効いた環境で過ごすことが増え、血行不良、運動不足・・これらもむくみにつながっていきます。
よく使われる漢方薬
むくみに
+口が渇きやすく、尿があまり出ない→五苓散
+体が冷えやすく貧血気味でむくみがち→当帰芍薬散
+汗をかきやすく、むくみやすい→防已黄耆湯
など
東洋医学
皮膚に広がった湿気(湿邪)、冷え(寒邪)などは熱や炎症(熱邪)に変化することがあり(湿寒化熱)、そのような時は皮膚に痒みが生じたり、ニキビが増えたりと肌のトラブルが発生しやすい。
西洋医学
気温や湿度の上昇により汗をかき、汗の中に含まれる塩分やミネラル物質が皮膚に刺激を与え、痒みが生じる。また皮膚表面に生息する常在菌が増殖し、痒み物質を産生するということも考えられる。
よく使われる漢方薬
肌トラブルに
+皮膚の乾燥が強く、痒みもある→当帰飲子
+痒みが強く、皮膚の乾燥もある、貧血気味→温清飲
+痒みがあり、患部が一部化膿している→十味敗毒湯
など
もちろん、この症状だからこれ、というわけではなく上記はあくまで傾向です。実際、体質などによってもお出しするお薬は異なる場合がございます。
当薬局では患者さんの体質に合わせた漢方薬を提供していますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
薬剤師 入多先生
<関連記事>
>>症例「【症例】呉茱萸湯が効いた片頭痛1例」
>>解説記事「頭痛について」
>>解説記事「不眠症(睡眠障害)の漢方薬治療」
■オンライン相談もご利用ください>>「オンライン漢方相談|来店なしでお薬お届け」
■漢方相談予約・お問合せ>>「お問い合わせ(LINE,WeChat,Skype,メールフォーム」
<参考資料>
許志泉. (2018) 漢方求真, 桐書房, pp. 31, 55, 57, 77, 89, 300, 326
長谷川弥人, 大塚恭男, 丁宗鐡. (1999) 改訂版 臨床医の漢方治療指針, メジカルビュー社, pp. 118, 119, 139, 272, 251, 255, 418
佐藤純. (2022) 「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本, アスコム, pp.44-47, 88-91, 124-131
佐藤純. (2015). 気象変化と痛み, Spinal Surgery 29 (2), 名古屋大学動物実験支援センター, pp.153-156
大森他. (2009). 気圧や気温の変化が痛みに与える影響について, Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集), 社団法人日本理学療法士協会
NERGİS AKGÜN et al. (2021) The effect of weather variables on the severity, duration, and frequency of headache-attacks in the cases of episodic migraine and episodic tension-type headache, 51(3), Turkish Journal of Medical Sciences, pp.1406-1412.
Vicky Duong et al. (2016) Does weather affect daily pain intensity levels in patients with acute low back pain? A prospective cohort study. Rheumatol Int 36 (5), pp.679–684
Daniel Steffens et al. (2014) Effect of weather on back pain: results from a case-crossover study, 66 (12), American College of Rheumatology, pp.1867-1872
気象病とは?
天気や気候の変化により起こる体調不良を“気象病”、その中でも特に片頭痛や三叉神経痛、腰痛など慢性的な痛みが増強するものを“天気痛”といいます。
こうした気象病が起こる原因として、気圧、気温、湿度の3つが考えられており、これらの変動により自律神経のバランスが乱れ、体に悪影響を及ぼすことでいろんな症状が発生することが知られています。
また、耳の奥にある内耳が気圧の変動をキャッチし、自律神経に影響を及ぼしているという説もあります。
天気が悪いからといって必ず不調をきたすわけではありませんが、梅雨の時期は特に体の中に湿気が溜まりやすく、食欲が落ちる、眠くて体が重い、腰や膝など関節が痛む、めまいがして気持ち悪いなどの症状を訴えいろんな方がご来店されます。
梅雨時期の不調
ここでは梅雨に多く見られる下記の不調が東洋医学と西洋医学でそれぞれどのように解釈されているのか、またそれらによく使われる漢方薬について詳しく見ていきましょう。
1. めまいや頭痛
2. 食欲不振、吐き気
3. お腹の冷えや下痢など
4. 関節の痛み
5. むくみ
6. 肌トラブル
1.めまいや頭痛
東洋医学
湿気(湿邪)が頭部に停滞することで、頭がぼーっとしたりふわふわと眩暈がしたり、重い物がかぶさったような頭痛がすることがある。
西洋医学
気圧の変化を内耳がキャッチすることで自律神経が乱れ、痛みを悪化させる。潮の満ち引きのように、気圧も1日に2回の変動があり(大気潮汐)、変動幅が大きくなると、人によっては気象病が発症しやすくなる。
よく使われる漢方薬
めまいや頭痛に
+頭が重い、肩こり、耳鳴り、胃腸が弱い、足の冷え→半夏白朮天麻湯
+動悸、息切れ、耳鳴り、肩や背中の痛み→苓桂朮甘湯
+頭が重い、憂鬱気味、肩がこる→川芎茶調散
+偏頭痛、吐き気、唾が多い、手足の冷え→呉茱萸湯
など
2. 食欲不振、吐き気
東洋医学
余分な水が体から排出されずに脾胃に停滞することや、大気中の冷気(寒邪)により、食欲が落ち、時にムカムカして吐き気を催す。
西洋医学
食欲や消化活動に関わる神経系は、自律神経のうちの副交感神経であることが知られており、副交感神経が優位になることで食欲が湧いてくるが急激な気温や湿度の変化により、この自律神経が乱れがちになることから食欲不振に陥ると考えられている。また気温が高いと、発汗、体温上昇、心拍数の増加などに関わる交感神経が優位になり、相対的に副交感神経が関わる食欲の方が落ちることも。
よく使われる漢方薬
食欲不振、吐き気に
+鳩尾(みぞおち)下が痞え、疲れやすく憂鬱気味→健胃顆粒
+お腹が張って痛む、下痢気味、暑気あたり→藿香正気散
+鳩尾の下が痞え、お腹がゴロゴロ鳴る→半夏瀉心湯
など
3. お腹の冷え、下痢など
東洋医学
梅雨の湿気(湿邪)や不要な水がお腹辺りに停滞すると水毒が生じ、お腹が冷えて痛んだり下痢しやすくなったりすることがある。
西洋医学
気圧や気温の大きな変動により自律神経に過剰に働き乱れることでさまざまな不調が出る。また、冷たいものを摂取することでお腹が冷え、下痢をする、食欲が落ちるなどもよく見られる。
よく使われる漢方薬
お腹の冷え、下痢に
+疲れやすい、めまい、むくみやすい→真武湯
+慢性の下痢、腹力がない、体重減少、消化不良→参苓白朮散
+お腹が張る、腹力がない、ガス腹、腹痛→大建中湯
+お腹が張って腹痛、便秘または渋り腹を伴う下痢→桂枝加芍薬湯
など
4. 関節の痛み
東洋医学
大気中の湿気(湿邪)や冷気(寒邪)などが合わさり、手足の関節に停滞することで、関節痛や関節が曲げにくい、こわばりなどが発生する。
西洋医学
気圧の低下(低気圧)や湿度の上昇により自律神経が乱れ、痛みを悪化させたりする。
よく使われる漢方薬
関節の痛みに
+痛みは激しくない、屈伸しにくい、汗をかきにくい→薏苡仁湯
+むくみ、口が渇く、熱感、急激な悪化→越婢加朮湯
+むくみ、冷えやすい、尿があまり出ない、動悸→桂枝加苓朮附湯
など
5. むくみ
東洋医学
湿気(湿邪)、余分な水、冷え(寒邪)が組み合わさり全身の皮膚に広がり停滞することで、むくみを起こしやすくなる。
西洋医学
梅雨は気温が低く湿度が高いため、皮膚の水分が蒸発しにくくなる『不感蒸泄(ふかんじょうせつ、transepidermal water loss;TEWL)』に陥りやすい気象条件だと言われています。この時季水分摂取が多くなる割に体内の水分が汗として排出しにくくなり、結果として余分な水分が体内に溜ってしまいがちです。また冷房の効いた環境で過ごすことが増え、血行不良、運動不足・・これらもむくみにつながっていきます。
よく使われる漢方薬
むくみに
+口が渇きやすく、尿があまり出ない→五苓散
+体が冷えやすく貧血気味でむくみがち→当帰芍薬散
+汗をかきやすく、むくみやすい→防已黄耆湯
など
6. 肌トラブル
東洋医学
皮膚に広がった湿気(湿邪)、冷え(寒邪)などは熱や炎症(熱邪)に変化することがあり(湿寒化熱)、そのような時は皮膚に痒みが生じたり、ニキビが増えたりと肌のトラブルが発生しやすい。
西洋医学
気温や湿度の上昇により汗をかき、汗の中に含まれる塩分やミネラル物質が皮膚に刺激を与え、痒みが生じる。また皮膚表面に生息する常在菌が増殖し、痒み物質を産生するということも考えられる。
よく使われる漢方薬
肌トラブルに
+皮膚の乾燥が強く、痒みもある→当帰飲子
+痒みが強く、皮膚の乾燥もある、貧血気味→温清飲
+痒みがあり、患部が一部化膿している→十味敗毒湯
など
もちろん、この症状だからこれ、というわけではなく上記はあくまで傾向です。実際、体質などによってもお出しするお薬は異なる場合がございます。
当薬局では患者さんの体質に合わせた漢方薬を提供していますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
薬剤師 入多先生
<関連記事>
>>症例「【症例】呉茱萸湯が効いた片頭痛1例」
>>解説記事「頭痛について」
>>解説記事「不眠症(睡眠障害)の漢方薬治療」
■オンライン相談もご利用ください>>「オンライン漢方相談|来店なしでお薬お届け」
■漢方相談予約・お問合せ>>「お問い合わせ(LINE,WeChat,Skype,メールフォーム」
<参考資料>
許志泉. (2018) 漢方求真, 桐書房, pp. 31, 55, 57, 77, 89, 300, 326
長谷川弥人, 大塚恭男, 丁宗鐡. (1999) 改訂版 臨床医の漢方治療指針, メジカルビュー社, pp. 118, 119, 139, 272, 251, 255, 418
佐藤純. (2022) 「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本, アスコム, pp.44-47, 88-91, 124-131
佐藤純. (2015). 気象変化と痛み, Spinal Surgery 29 (2), 名古屋大学動物実験支援センター, pp.153-156
大森他. (2009). 気圧や気温の変化が痛みに与える影響について, Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集), 社団法人日本理学療法士協会
NERGİS AKGÜN et al. (2021) The effect of weather variables on the severity, duration, and frequency of headache-attacks in the cases of episodic migraine and episodic tension-type headache, 51(3), Turkish Journal of Medical Sciences, pp.1406-1412.
Vicky Duong et al. (2016) Does weather affect daily pain intensity levels in patients with acute low back pain? A prospective cohort study. Rheumatol Int 36 (5), pp.679–684
Daniel Steffens et al. (2014) Effect of weather on back pain: results from a case-crossover study, 66 (12), American College of Rheumatology, pp.1867-1872
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