鼻アレルギーは季節性アレルギー性鼻炎、いわゆる「花粉症」と「通年性アレルギー性鼻炎」を含みます。アレルギー性鼻炎は過去10年間で有病率が10％も上昇しており、その中でも花粉症、特にスギ花粉症が中心となって 増加しています。

花粉症は間もなく人口の約半分までに有病率が達することから、国民にとって最もポピュラーな疾患で あり、言い換えれば“国民病”ともいえるでしょう。

 

中医学の経典とされる「傷寒論」には、病期による分類も行われ、病期は「陽」から「陰」の症状へ進み、悪化するとされています。

陽の症状と陰の症状は、それぞれ更に細かく、３つの陽期と３つの陰期に分けられ、合せて６つの段階に分類できます。これを六経分類といいます。

大ざっぱにいえば、病気は徐々に陽証から陰証へ、表証から裏証へ、熱証から寒証へ、実証から虚証へ進むとされていますが、もちろん、この限りではありません。

これらの六経病は太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病を含みます。

 

花粉症は、花粉に対する鼻や目や咽頭などの粘膜アレルギー反応です。花粉が同じであっても、体質や個々の生体反応により病状も違います。その個々病状を六経病からみてみると、ぴったりの治療法を見つけることができます。

以下、六経病期ごとにまとめます。

 

１、太陽病期にあたる花粉症の症状と漢方薬

A．鼻づまりがひどい、特に夜間鼻が詰まっていて眠れない、風寒をかかる場合には鼻づまりがひどくなるタイプ：麻黄、桂皮、杏仁、甘草からなる麻黄湯が有効

B．鼻づまり、鼻水、くしゃみの以外に、頭痛、肩こりがひどく、風寒をかかる場合には鼻づまりがひどくなるタイプ：麻黄、桂枝、葛根、芍薬、生姜、甘草、大棗、川芎、辛夷からなる葛根湯加川芎辛夷が有効

C．鼻づまり、鼻水やくしゃみなどがそれほどひどくなく、汗が出やすい、逆上せが出やすいタイプ：桂枝、芍薬、生姜、甘草、大棗、川芎、辛夷（桂枝湯加川芎辛夷）、桂枝加竜骨牡蠣湯、苓桂五味甘草湯が有効。一人の72歳患者さんに3か月ぐらい桂枝加竜骨牡蠣湯を飲ませたところ、花粉症が全然出なくなった症例がありました。

 

２、少陽病期にあたる花粉症の症状と漢方薬

鼻アレルギーが慢性化して通年性アレルギー性鼻炎や花粉症、気温変化に敏感して症状が出る方には、小柴胡湯、四逆散、柴苓湯が有効な場合があります。

蓄膿症や鼻炎など合併しやすく、慢性化している方には、荊芥連翹湯を併用してもよいでしょう。

 

３、陽明病も合併する花粉症の症状と漢方薬

単純な陽明病期の花粉症は少ないですが、発熱や口渇や喉の痛みや痒みがひどい方には、陽明病の合併も考えられます。その時は、石膏や桔梗や知母を加えて治療したり、辛夷清肺湯で治療することもあります。

 

４、太陰病期にあたる花粉症の症状と漢方薬

A．胃腸が弱く、冷えやすい、心窩部やお腹にゴロゴロにして、下痢しやすいを伴う鼻づまり、鼻水、咳などの場合には、苓姜朮甘湯、苓甘姜味辛夏仁湯などが有効です

B．太陰・太陽の合病にあたる花粉症

多くの方はこのタイプに分類されると思います。鼻水、くしゃみ、鼻づまりの3大症状、また頭がぼっーとする、心窩部に水がたまっていることなどがあります。半夏・麻黄・桂皮・乾姜・甘草・五味子・細辛・芍薬からなる小青竜湯で治療することが有効です。

C．太陰・太陽・陽明の合病にあたる花粉症

Bのタイプに鼻や目の痒みが強く、口の乾き、煩熱も出現する場合には、小青竜湯に石膏・杏仁・桔梗を加えて治療するとよいです。

 

５、少陰病期にあたる花粉症の症状と漢方薬

体のだるさがあり、体力のない、冷えると体がいたくなる方にアレルギー性鼻炎・花粉症の場合には、麻黄附子細辛湯、或は小青竜湯と一緒に治療しましょう。

 

６、厥陰病期にあたる花粉症の症状と漢方薬

体調が悪く、四肢冷え、煩躁口渇またアレルギーのある方は、茯苓四逆湯などで治療したほうがよいでしょう。

 

以上となりますが、あくまで私の経験上有効な漢方薬を挙げています。実際治療する際には、六経学説に基づき詳しく相談しなければなりません。経験がない場合には判別が難しいため、安易に自己判断しないでください。お悩みの方はぜひ一度、ご相談ください。

富士堂漢方医学研究所　所長　医学博士　許志泉

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