2018.09.26>下痢・慢性下痢
下痢(ゲリ)の漢方治療
下痢とは?
水分含量の多い液体の糞便を頻回に排出する状態。
健常者の糞便中の水分量は100~120ml、週3回ないし20回(3回/日)の便通がある。
臨床的には一般に ①便通回数の明らかな増加 ②便の液状化 ③1日の便重量が平均250gを超えるときが下痢と考えます。
下痢は急性下痢と慢性下痢に分類される。急性下痢は急激に発症し、しばしば腹痛を伴って1日4回以上排便をみる状態をいい、持続期間は1~2週間以内です。
慢性下痢は必ずしも回数には関係ないが、糞便中の水分が200ml以上の軟便を2週間以上にわたって排出している状態を指し、小児や成人では3週間症状の持続した場合で、乳児では4週間持続した場合と定義されています。
急性下痢の原因疾患: 急性細菌性胃腸炎(食中毒を含む)、ウイルス性腸炎(ノロウイルスなど)、アレルギー性腸炎、過食による胃腸炎など
慢性下痢の原因疾患: 過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸がん、腸結核、膵性下痢、胃腸管切除後慢性下痢など
臨床の特徴
一般特徴
発症状況(発症時期、持続期間、回数)
随伴症状(腹痛、吐き気、嘔吐、発熱)
糞便性状(水様便、粘血便、発酵臭、酸臭、糞便量、泡立有無)
家族、同僚や集会の参加者などに同時に発症した場合は、感染症または毒素による下痢が疑わしい、食べ物摂取と発症との間隔が手がかりとなり、14時間以内の早期発症は食中毒でみられるが、遅れて発症する場合は腸内で増殖するのに時間を必要とする感染性である。
渡航歴や職業歴、居住地なども尋ねておく。赤痢アメーバ、赤痢菌感染など感染性の疑いがあれば、病院の検査も一緒にお勧めてください。
既往歴で腹部の手術有無、結核、糖尿病、膠原病など、放射線治療、胃や腸の切除、服用の薬、アレルギーの有無。
家族歴でポリポーシス患者の有無など
下痢の問診ポイント
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現病歴
l 急性か慢性か
l 血性かどうか
l 併発症状の有無
l 急性下痢の場合:
・食事内容(魚介類・食肉・同じ食べ物の摂取者間で発症)
・海外旅行
・薬物の使用(抗生物質などの服用歴)
l 慢性下痢の場合:
・下痢の状態(性状、量、回数、しぶり腹、血便の有無)
・特定の食事との関係(牛乳などアレルギー関係)
・発熱や腹痛
・体重減少
既往歴
l 手術(胃、小腸、胆嚢などの切除)
l 放射線照射
l 基礎疾病(糖尿病、膠原病、腎不全、肝硬変、心臓疾病、結核、炎症性腸疾患、中枢・末梢神経疾患)
家族歴
l 慢性下痢、ポリポーシス患者の有無
職業歴、居住地
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適応薬方解説
【葛根湯】感染初期やインフルエンザに伴う発熱と下痢。
【葛根黄芩黄連湯】表症(寒気、促脈、咳)まだ残っている時に用いる。
【黄芩湯】発熱を伴う下痢と腹痛(芍薬・甘草)に用いる。
【黄連湯】心下痞硬、悪心嘔吐、煩躁、口内炎を伴うもの。
【半夏瀉心湯】食欲不振、悪心・嘔吐、胸やけ、多くは軟便程度の下痢、軽度の不安。不眠。心窩部の膨満感と抵抗・圧痛(心下痞硬)、軽度の振水音、時として腹中雷鳴を呈する。
【生姜瀉心湯】噯気食臭、胸やけや吐き気が多く方に生姜を加えます
【甘草瀉心湯】心煩、神経症状が強い方に甘草を増量し、
【半夏瀉心湯】・【生姜瀉心湯】・【甘草瀉心湯】
半夏 | 黄芩 | 乾姜 | 人参 | 甘草 | 大棗 | 黄連 | 生姜 | |
半夏 | 5g | 2.5g | 2.5g | 2.5g | 2.5g | 2.5g | 1g | |
生姜 | 5g | 2.5g | 1.5g | 2.5g | 2.5g | 2.5g | 1g | 2g |
甘草 | 5g | 2.5g | 2.5g | 2.5g | 3.5g | 2.5g | 1g |
【藿香正気散】夏風邪と伴い下痢に。吐き下し、暑さ負け。
【五苓散】一般的に口渇及び尿量減少を目標に。急性症では、特に小児で発熱、下痢、水分摂取直後の急激な嘔吐(水逆)などがみられる。下痢の場合には水様性下痢で、小便減少がなくても、使います。つまり、利尿の方法で、腸から水分を吸収促進し、それて便を固くさせます。
【猪苓散】口渇がある水様性下痢は同じ、排尿違和感、血尿、時に血便となるような場合に
【柴苓湯】小柴胡湯を加えた処方です。口渇、水様性下痢に各種の炎症が加わった状態。発熱や頻回の下痢のある時期に、免疫調整効果もある。
【胃苓湯】食後に腹鳴や下痢が多く、水様性下痢、腹部膨満感、
【小建中湯】腹痛・腹直筋緊張、虚弱で疲れやすい、尿量、回数とも多い。
【桂枝加芍薬湯】慢性下痢、腹部緊張がある。
【桂枝加芍薬大黄湯】腹満と強い腹痛のある症例に用いられます。この場合の大黄は、下す(瀉下)目的ではなく、消炎的、止痢的に作用します。腹部は、腹力やや弱いし中等度で、腹直筋が緊張していることが多い。
【桂枝人参湯】頭痛、発熱、汗が出る、悪寒など表熱の症状があって、みぞおちが硬く、下痢のあるもの。冷え症で下痢しやすく虚証の人に用いる。
【参苓白朮散】胃腸が虚弱で、別に発熱悪寒の様子もなく、ただ体がだるく食欲のないに。大病後、胃腸を元気にしようとする時に。胃腸が弱っていて常に下痢する時に与える。消化力低下期の栄養剤(山薬・扁豆・薏苡仁・れんにく)
【啓脾湯】比較的に体力低下し、やせ型で、顔色不良な方。下痢は泥状ないし水様です。明け方近くの下痢、すなわち鶏鳴瀉は目標です。小児の消化不良によく用いられる。また病後の胃腸の強化剤として使われる。
【胃風湯】虚弱な方が風邪を引いたり不消化のものを食べたり、神経を使ったりの原因で胃腸の機能が失調し、そのため下痢となり、慢性化したものによい。
【啓脾湯】・【桂枝人参湯】・【参苓白朮散】・【胃風湯】
人参 | 白朮 | 茯苓 | 蓮肉 | 山薬 | 山査 | 陳皮 | 沢瀉 | 甘草 | ||
啓脾 | 3g | 4g | 4g | 3g | 3g | 2g | 2g | 2g | 1g | |
人参 | 3g | 3g | 乾2g | 桂4g | 3g | |||||
参苓 | 3g | 4g | 4g | 3g | 3g | 薏8g | 扁3g | 桔2g | 2g | 縮2g |
胃風 | 3g | 3g | 4g | 帰3g | 芎3g | 芍3g | 桂2g | 粟2g |
【人参湯・理中丸】冷えて血色がすぐれない。
(富士堂漢方薬局)
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