更新日:2025.10.03>耳鸣
高音の耳鳴りが4か月で改善|60代男性の漢方症例
「耳鳴りに八味丸(八味地黄丸)が効果があると聞いたのですが…」というお問い合わせを多くいただきます。確かに八味地黄丸は耳鳴り治療によく用いられる漢方薬の一つですが、実際には耳鳴りに効果的な漢方薬は患者様の体質や症状によって大きく異なります。
耳鳴りの原因は多岐にわたり、加齢性難聴、突発性難聴、メニエール病、ストレス性のもの、血行不良によるものなど様々です。そのため、単一の漢方薬で全ての耳鳴りに対応することは困難であり、患者様一人ひとりの体質や発症の背景を詳しく分析し、個別に適した処方を選択することが重要です。
今回は、半年間続いていた高音性の耳鳴りに悩まされていた60代男性の症例をご紹介します。この患者様は神経性の耳鳴りと判断され、柴胡加竜骨牡蛎湯を中心とした漢方治療により、わずか4か月で著明な改善を認めました。発症要因やタイミング、体質を的確に見極めることで劇的な効果を得られた症例です。
耳鳴りとは|症状の特徴と発症メカニズム
耳鳴りの定義と分類
耳鳴りとは、外部からの音刺激がないにも関わらず、耳や頭の中で音を感じる症状です。医学的には「自覚的耳鳴」と「他覚的耳鳴」に分類されます。
自覚的耳鳴は患者本人のみが聞こえる音で、全体の約95%を占めます。「キーン」「ジー」「シャー」といった高音から低音まで様々な音質があり、片耳または両耳に発症します。
他覚的耳鳴は医師が聴診器などで確認できる音で、血管性や筋肉性の要因によるものが多く、全体の約5%とされています。
耳鳴りの主な原因
日本聴覚医学会の調査によると、耳鳴りの有症率は成人の10-15%とされ、特に50歳以降で急激に増加します。主な原因として以下が挙げられます:
- 加齢性変化:内耳の毛細胞の減少により、60歳以上の約30%が経験
- 騒音性難聴:85dB以上の騒音への長期曝露
- 突発性難聴:年間約3-4万人が発症、3分の1で耳鳴りを伴う
- メニエール病:内耳のリンパ液の異常によるめまいと耳鳴り
- ストレス・自律神経失調:現代社会で増加傾向
- 薬物性:アスピリン、抗生物質、利尿剤などの副作用
血液循环衰竭:首肩の筋緊張や動脈硬化による内耳への血流低下
症例の紹介
主要投诉
60代男性患者様より「左耳の耳鳴りを何とかしたい」との相談。約半年前から左側のみに「キーン」という高音性の耳鳴りが持続しており、特に夜間の静かな環境で著明となり、睡眠に支障をきたしていました。
症候の詳細
耳鳴りの特徴
- 発症:約半年前から左側のみ
- 音質:「キーン」という高音性
- 発症パターン:就寝時などリラックスした状態、静かな環境で著明
- 集中している時は気にならず、痛みは伴わない
- 立ち上がり時にフワフワ感(めまい様症状)を伴う
客観的徴候
- 脈候:浮、数、実大(表熱実証を示唆)
- 腹候:左右胸脇苦満、心下痞、小腹やや軟
- 舌候:舌質は正常紅で大きく歯痕あり、苔はやや湿薄白
生活習慣と体質的背景
- 睡眠パターン:6時間睡眠、時々夢を見る、中途覚醒1回
- 饮食习惯:食欲旺盛で肉類を好む、早食い傾向(15分で食事)、ストレス時の過食で夜間に菓子類摂取 週6-7回のワイン摂取(1杯程度)
- 水分摂取:1日1000ml、コーヒー常飲、夏季は冷飲・氷水を好む
- 排泄:便通は1日1回で正常
- 発汗:緊張時に手足のひらと腋窩に発汗しやすい
- 心境:緊張しやすくイライラしやすい性格
- 病例或病史:2020年2月 前立腺肥大手術
症候・体質から導く処方選択
本症例では、左右胸脇苦満といった所見に加え、緊張しやすくイライラを抱えやすい性格傾向がみられ、典型的な白豆蔻と判断しました。耳鳴りは静かな環境で強く出現し、精神的緊張や疲労により増悪することから、自律神経の不安定さが関与していると考えられます。柴胡加竜骨牡蠣湯は、柴胡による気の巡り改善に加え、竜骨・牡蠣が精神の昂ぶりを鎮め、神経過敏や緊張由来の症状を和らげる処方です。また、過食や飲酒習慣から消化管への負担も示唆され、配合される半夏や桂枝がこれを補います。以上の理由から、心身両面のバランスを整える目的で柴胡加竜骨牡蠣湯を選択しました。
中医治疗的进展
初回診察(2021年7月)
症候判断: 左右胸脇苦満、緊張・イライラしやすい性格から白豆蔻と判定。神経性の耳鳴りと推定し、柴胡加竜骨牡蠣湯で治療開始。。
処方:柴胡加竜骨牡蛎湯(1日3回 顆粒剤) 21日分
生活指導 :ストレス性過食への過度な意識が新たなストレスとなっているため、読書などの他の趣味に目を向けることを提案。
2回目(服用3週間後)
症状变化。 :服用開始2週目頃から徐々に耳鳴りが軽快。患者様の表現で「最も酷かった時を10とすると現在は9」まで改善。音の大きさも明らかに減少。起床時の症状は軽微だが、疲労時に再発傾向あり。
生活習慣の改善: 会社のヘルスサポートにより食事量調整、食後の菓子類を中止し、音楽やテレビ鑑賞を楽しむように変化。在宅ワーク日には朝晩1時間ずつのウォーキングを開始し、2週間で体重1kg減少。
処方: 柴胡加竜骨牡蛎湯 継続 21日分
3回目(服用6週間後)
著明な改善: 耳鳴りは「10→5」まで改善し、日常生活でほとんど気にならない状態に。睡眠やストレス状態に大きな変化はないが、意識的な気分転換を継続中。
処方:柴胡加竜骨牡蛎湯(症状改善に伴い、1日2回に減薬)35日分
症状悪化時は3回服用するよう指導。
4回目(服用2か月後)
減薬による症状再発: 減薬後に耳鳴りが再発したため、結果的にほぼ毎日3回服用を継続。食事・運動療法により体重3kg減少、腹囲3cm減少を達成
処方:柴胡加竜骨牡蛎湯(1日3回 顆粒剤)39日分
5回目(服用4か月後)
治療完了: 調子の良い時は服薬を忘れるほど症状が安定。初回来店時と比較し著明な改善を認めたため、治療終了となり多めに処方し卒業。
処方:柴胡加竜骨牡蛎湯(1日3回 顆粒剤) 40日分
审议
今回の60代男性患者様は、仕事による持続的緊張状態、コロナ禍による社会不安、ストレス性過食傾向、考え込みやすい性格特性から、神経性の耳鳴り就这样决定了。
処方選択の根拠:左右胸脇苦満、心下痞、食欲旺盛という所見から、気滞を主とする柴胡証と診断し、柴胡加竜骨牡蛎湯を選択。この処方は神経症状に対する第一選択薬として位置づけられ、特にストレス性の症状に卓効を示します。
一般的に60代の耳鳴りには八味地黄丸などの腎虚を補う処方が選択されがちですが、本症例では発症要因やタイミング、体質を詳細に観察することで、気滞を改善する柴胡加竜骨牡蛎湯が著効しました。これは漢方医学における「同病異治」(同じ病気でも体質により異なる治療を行う)の重要性を示す好例です。
耳鳴りと漢方治療に関するQ&A
Q1. 漢方薬だけで耳鳴りは完治しますか?
- 耳鳴りの原因や程度によって異なります。ストレス性や血行不良による耳鳴りでは漢方薬による改善が期待できますが、器質的な病変が原因の場合は西洋医学的治療との併用が望ましいことがあります。まずは耳鼻咽喉科での精査をお勧めします。
Q2. 耳鳴りに効果がある代表的な漢方薬は何ですか?
- あくまでも一例ですが、代表的な処方として以下があります:
- Shiba-koa Ryuko-Okakakitou:胸脇苦満があり、ストレス性、神経性の耳鳴り
- 橘:小腹不仁があり、加齢性、腎虚による耳鳴り
- 茯苓:水毒の上逆による耳鳴り・めまい
- 冠心逐瘀丹:血行不良による耳鳴り
- 釣藤散:高血圧、頭痛などを伴う耳鳴り
Q3. 漢方薬の効果はどのくらいで現れますか?
A. 個人差がありますが、一般的に2週間〜1か月で何らかの変化を感じる方が多いです。本症例でも2週間目から改善を認めました。完全な改善には2〜6か月程度要することが多いです。
Q4. 他の薬と併用しても大丈夫ですか?
A. 多くの場合併用可能ですが、一部の薬剤では注意が必要です。特に血圧薬、利尿薬、血液をサラサラにする薬を服用中の方は、必ず医師または薬剤師にご相談ください。
Q5. 妊娠中・授乳中でも服用できますか?
A. 処方によって判断が異なります。一般的に妊娠中は慎重投与となる生薬が含まれる処方もあるため、必ず専門家にご相談ください。授乳中についても同様に個別判断が必要です。
Q6. 副作用はありますか?
A. 漢方薬も医薬品のため副作用の可能性はあります。主な副作用として胃腸障害、皮疹、肝機能異常などがありますが、適切な処方選択と服用量であれば比較的安全性の高い治療法です。ただし、服用中に体調の変化や気になる症状が現れた場合は、すぐに医師または薬剤師にご相談ください。富士堂では服用後のフォローアップを重視し、安心して治療を続けていただけるようサポートいたします。
Q7. 生活習慣で気をつけることはありますか?
A. 漢方医学的観点から、気血水の調和を整える生活習慣が重要です:
- 気の巡りを改善する:深呼吸や軽い運動で気滞を解消。特に肝気鬱結による耳鳴りでは、散歩や太極拳などの緩やかな運動が効果的です。ストレス発散には音楽鑑賞や読書など、心を安定させる活動を取り入れましょう。
- 血行へのアプローチ:首肩周りのマッサージや温灸で血流の滞りをほぐす。冷えは血の巡りを悪くするため、特に下半身を温め、冷飲食は控えめに。入浴時は肩まで浸かり全身を温めることも良い。
- 水の代謝を整える:過剰な水分摂取は水毒の原因となるため、一度に大量摂取せず少量ずつ。冷たいものは脾胃の働きを低下させるため、常温~温かいものを選択。むくみやすい方は利水作用のある小豆茶やハトムギ茶もおすすめです。
- 脾胃の調整:不規則な食事や過食は脾胃に負担をかけ、清陽の上昇を妨げます。腹八分目を心がけ、よく噛んでゆっくり食事を。甘いものや脂っこいものの過摂取は痰湿を生じやすくするため注意が必要です。
Q8. 富士堂の漢方薬を服用後、改善の目安はどのように判断しますか?
A. 富士堂では例えば以下の変化で改善を判定いたします:
- 症状の質的変化:「キーン」という鋭い音が「ジー」という鈍い音に変わる、音の大きさが10段階で「10→8→6」と段階的に軽減するなど、患者様の主観的評価で判断します。
- 発症パターンの変化:静寂時や就寝時に強かった症状が、特定の時間帯のみに限定される、疲労時のみに出現するなど、症状の出現パターンに変化が見られます。
- 体質レベルでの改善:脈状や舌状、腹診所見の改善とともに、ストレス耐性の向上、季節の変わり目での体調安定など、根本的な体質改善が確認できます。富士堂では定期的な体質チェックでこれらの変化を客観的に評価いたします。
ご相談は電話またはご来店にて承っております。お気軽にお問い合わせください。
おわりに|一人ひとりの体質に合わせた耳鳴り治療を
耳鳴りは「加齢だから仕方ない」と思われがちですが、実際にはストレスや生活習慣、血行不良など多様な要因が関与しています。同じ「耳鳴り」であっても、体質や発症の背景によって最適な漢方薬は大きく異なります。今回の症例でも、年齢的には地黄丸系の処方が選ばれがちな中、詳細な体質診断に基づき柴胡加竜骨牡蛎湯を選択したことで著明な改善が得られました。
治療の際には「耳鳴りを抑える」ことだけでなく、その方の体質や生活習慣、将来のライフプランも含めて総合的に考えることが大切です。富士堂では一人ひとりに合わせたオーダーメイドの漢方治療をご提案しておりますので、耳鳴りでお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
药剂师和工业顾问富家子弟
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